学歴より実力重視へ──フィリピン現地法人の日本企業が変えるべきAI時代の採用基準
フィリピン進出の日本企業向けに、AI時代のスキルベース採用への移行手順を解説。学歴重視を見直し、認定資格や実技評価を導入する具体策と、DOLEなど現地規制への対応をまとめました。

修士号より「使えるスキル」── フィリピンの日本企業が今すぐ見直すべき採用基準
AIが業務を変える今、フィリピンの日本企業に求められる採用基準の見直しを解説します。学歴フィルターからスキルベース採用への切り替え方を、現地の実情に即して整理しました。
Part 1: このテーマが重要な理由
Step 1: フィリピンビジネスでの背景 (3分)
米国の労働市場で、修士号の価値が揺らぎ始めています。35歳未満で修士号を持つ若手の失業率は、過去20年で最も高い水準に近づいています。背景には、AIによる業務の自動化と、雇用主が学歴よりも「実際にできること」を重視し始めた流れがあります。
この動きは、フィリピンの採用市場にも確実に波及します。フィリピンは英語が公用語のひとつで、毎年大量の大卒人材が労働市場に出てきます。日本企業の現地法人やBPO(業務委託で他社の業務を引き受ける形態)拠点では、これまで「学歴フィルター」で候補者を絞り込む手法が一般的でした。しかし、AIで業務の進め方そのものが変わるなか、学歴に頼った採用では現場で戦力にならない人を採ってしまう危険が高まっています。
日本本社の人事ルールをそのまま現地に持ち込むと、優秀なフィリピン人材を取りこぼします。フィリピンでは、Coursera や Google の認定資格、フリーランス経験など、学位とは別のかたちで実力を証明する文化が広がっています。日本人駐在員や現地マネージャーは、こうした評価軸の変化を理解し、面接や評価制度に取り込む必要があります。
マニラ・BGC(ボニファシオ・グローバル・シティ)の現地法人オフィス。月曜の朝会で、人事マネージャーのMaria(マリア)さんが日本人駐在員の田中さんにこう切り出します。
「田中さん、先週応募してきた候補者の件です。本社の基準だと修士号がないので書類で落とすことになります。でも彼はAWS認定とAI関連のプロジェクト実績があって、現場では即戦力になりそうです。米国でもこういう人材を学歴だけで落とすのは時代遅れだという記事が出ていました。基準を見直しませんか?」
このやり取りこそ、今フィリピンの現場で起きている変化の縮図です。
Step 2: 元記事の要点を整理する (5分)
元記事に出てきた事実をもとに、主要なポイントを表にまとめました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 若手修士号保持者の失業率 | 35歳未満で修士号を持つ層の失業率が、過去20年で最も高い水準に近づいています |
| 法務・医療など専門学位の状況 | 法律や医療の専門学位を持つ若手の失業率は、相対的に低い水準にとどまっています |
| 米国の修士課程プログラム数 | 過去20年で約70%増加し、33,500を超えるプログラムに達しています |
| 拡大した分野 | ビジネス、医療、テクノロジー領域。特にAIやデータ分析の新設プログラムが目立ちます |
| 企業側の動き | Drexel大学LeBow経営大学院の調査で、今年MBA採用をしないと回答する企業が増えています |
| 採用の評価軸 | SHRM(米国人事マネジメント協会)のJohnny C. Taylor Jr.CEOは、学位よりも「すぐ仕事ができるか」を重視する傾向が強まっていると指摘しています |
| 分析の出典 | 米国労働統計局(BLS)のデータを、Burning Glass Institute(チーフエコノミスト: Gad Levanon氏)が分析しました |
この表は学習目的で公開情報の事実をもとに作成したものです。詳細は上記リンクの元記事をご確認ください。
関連: IBM認定AIプロフェッショナルとは?フィリピンで活かせるAI資格の全貌と取得ステップ で詳しく解説しています。
Step 3: 理解度チェック (5分)
Q1. 米国で失業率が過去20年で最も高い水準に近づいているのは、どの層ですか?
ヒント: 年齢と学位の組み合わせに注目してください。
Q2. 過去20年で米国の修士課程プログラムは何%増えましたか?また、現在の総数はいくつですか?
ヒント: パーセンテージと4桁の数字、2つの情報を答えてください。
Q3. 法律や医療の専門学位を持つ若手の失業率が、相対的に低い水準にとどまっているのはなぜでしょうか?元記事の説明を踏まえて答えてください。
ヒント: 学位そのものが「何の役割を果たすか」が鍵です。免許との関係を考えてみましょう。
Q4. SHRMのCEOであるJohnny C. Taylor Jr.氏は、雇用主が候補者に何を求めるようになっていると述べていますか?
ヒント: 「学位を持っているか」と「○○できるか」の対比です。
Q5. 採用の評価軸が変わる動きを加速させている技術的な要因は何ですか?
ヒント: 元記事のタイトルにも、本文にも繰り返し登場している2文字のアルファベット略語です。
関連: フィリピン進出企業の経営課題をAIテクノロジーで解決する実践ガイド で詳しく解説しています。
Part 2: 実務への応用
Step 4: フィリピンでの導入ステップ (10分)
学歴重視からスキル重視に採用基準を切り替えるには、段階を踏んだ進め方が必要です。フィリピン特有の労働法や文化を踏まえて、現場で実行できる5ステップを示します。
| ステップ | やること | フィリピン特有の注意点 |
|---|---|---|
| 1. 職務要件の棚卸し | 各ポジションについて「実際に必要なスキル」と「あれば望ましい学歴」を分けて書き出します。 | 日本本社が定めた職務要件をそのまま使わず、現地の業務実態に合わせて書き直してください。本社側に説明する資料も同時に作っておきます。 |
| 2. 評価基準の作り直し | 学歴の点数配分を下げ、職務に直結する技術力や実務経験の比重を上げます。 | DOLE(労働雇用省)の労働基準に違反しないよう、差別と受け取られかねない基準は避けてください。年齢、宗教、配偶者の有無などは評価項目に入れないことが大原則です。 |
| 3. 実技テストの導入 | 履歴書と面接だけでなく、簡単な実技課題を加えます。例として、データ分析職ならExcelとSQLでの集計課題、マーケティング職なら過去キャンペーンの分析レポートなどです。 | 課題の所要時間は2時間以内に抑えてください。長時間の無償課題は、現地のSNSで「搾取的」と批判されやすく、採用ブランドを損なう原因になります。 |
| 4. 認定資格の評価枠新設 | AWS、Google Cloud、Microsoft、PMP、CFAなど、職務に直結する認定資格を持つ候補者を加点する枠を作ります。 | 認定資格の研修費用は、フィリピンでは概ね20,000ペソから80,000ペソが相場です。入社後の取得支援を福利厚生として打ち出すと、採用力が高まります。 |
| 5. 試用期間中の評価設計 | 採用後の6ヶ月試用期間で、当初の評価がどれだけ正しかったかを検証する仕組みを作ります。 | フィリピン労働法では、試用期間は原則6ヶ月以内です。試用開始時に評価基準を書面で本人に渡しておかないと、不採用にする際に不当解雇とみなされる危険があります。 |
Step 5: よくある失敗と対策 (5分)
スキル重視の採用に切り替えるとき、フィリピンで起きやすい失敗を3つ取り上げます。
失敗パターン1: 「日本本社の学歴基準を現地に押し付けてしまう」
NG例: 日本本社の人事規程に「修士号必須」と書いてあるため、現地法人もそれを変えずに運用してしまいます。結果として、現地の優秀な実務家を採れず、空席が半年以上埋まりません。
OK例: 現地法人の人事責任者と日本本社の人事部が話し合い、「ポジションごとに学歴要件を見直してよい」と覚書を交わしておきましょう。実例として、AI関連のエンジニア職では学歴要件を外し、認定資格とポートフォリオで評価する運用に切り替えると、応募者数が増えやすくなります。
失敗パターン2: 「実技テストを作りすぎて応募者が逃げる」
NG例: スキル重視を徹底しようとして、5時間かかる課題を出してしまいます。優秀な人ほど他社からも声がかかっているため、長時間の無償課題は途中で辞退されます。
OK例: 課題は1時間から2時間で終わる範囲に絞りましょう。実際の業務に近いミニ課題にし、終了後にフィードバックを返すと、不採用になった候補者からの評判も良くなります。マニラのIT人材市場は口コミの影響が大きいため、「あの会社の選考は丁寧だった」という評価が次の応募につながります。
失敗パターン3: 「資格手当の制度設計を曖昧にして揉める」
NG例: 入社後に「AWS認定を取ったら手当を出すよ」と口頭で約束してしまいます。フィリピンでは口頭合意も労働条件の一部とみなされやすく、後から「言った、言わない」の争いになります。
OK例: 手当の対象となる資格、金額、支給開始の条件を書面の雇用契約書か別添の規程に明記してください。例として「AWS Solutions Architect Associate取得時、月額3,000ペソを取得月から12ヶ月支給」のように、具体的な数字と期間を書きます。
Part 3: さらに深く学ぶ
Step 6: 関連する技術用語 (5分)
Skills-based Hiring(スキルベース採用) 学歴や職歴ではなく、応募者が実際にできる仕事の内容で採否を決める採用のやり方を指します。フィリピンのBPO業界では、英語の応対試験や実技テストを早い段階に組み込み、学歴フィルターを使わない採用が広がっています。
Credentialing(資格認定) 個人が特定の知識や技能を持っていることを、第三者機関が試験などで認める仕組みを指します。マニラの日系IT企業では、AWS認定やGoogle認定を取った社員に資格手当を出し、社内研修よりも認定試験の合格を評価する制度に切り替える動きが進んでいます。
Upskilling(スキル習得・能力向上) 今の仕事を続けながら、新しい技能を身につけて担当できる業務を広げていくことを指します。セブのシェアードサービスセンター(複数のグループ会社の経理や人事をまとめて引き受ける拠点)では、AI操作の基礎研修を全社員に提供し、データ入力中心の業務から分析業務に職務を広げる取り組みが始まっています。
Burning Glass Institute(バーニング・グラス研究所) 米国の労働市場を分析する独立系の研究機関を指します。求人データや就業データから雇用のトレンドを分析しており、米国内外の人事担当者が採用戦略を立てるときによく参照します。フィリピンの日系企業の人事部門でも、米国の動向を先取りするためにこの種の調査レポートを読む習慣をつけると良いでしょう。
SHRM(米国人事マネジメント協会) 人事の専門家が集まる世界最大級の業界団体を指します。採用や評価、労務管理の指針を発信しており、フィリピンの日系企業でも、ここが出すレポートを参考に評価制度を見直す動きが見られます。現地の人事担当者にSHRM認定資格(SHRM-CPなど)の取得を支援すると、社内の人事品質を底上げできます。
Step 7: 自社への応用を考える (10分)
自社の採用要件から学歴フィルターを外す
考えるヒント: 現在の求人票を一枚取り出し、「学歴」「専攻」と書かれた箇所に印を付けてみましょう。そのうえで、「この条件を満たさなくても、実技で証明できれば採用してよいか?」を一行ずつ確認します。多くの場合、半分以上の項目は実技や認定資格で代替できます。
次のアクション: 来週中に、現地法人の人事責任者と一緒に1ポジション分の求人票を書き直してみてください。修正前後を並べて、応募者層がどう変わるかを2週間後にレビューします。
AI時代の「即戦力」を定義し直す
考えるヒント: 元記事のSHRM CEOは「すぐ仕事ができるか」を重視する企業が増えていると述べています。自社にとっての「すぐ仕事ができる」とは、具体的にどんな成果物を、どれくらいの期間で出せることなのでしょうか。職種ごとに言語化してみましょう。
次のアクション: 各部署の管理職に「入社1ヶ月で出してほしい成果物を3つ挙げてください」と依頼し、それを次回の求人票に「期待される成果」として書き加えてみてください。
社内のフィリピン人材のキャリアパスを再設計する
考えるヒント: スキル重視の採用に切り替えるなら、入社後のキャリアパスも資格と実績ベースで設計し直す必要があります。学歴で昇進の上限が決まる制度は、優秀な現地人材の離職を招きます。
次のアクション: 自社のフィリピン人スタッフ全員の現職と保有資格を一覧にし、次の3年で取得を支援する資格をひとり1つずつ決めましょう。費用と研修時間を年間予算に組み込み、来期の事業計画に反映します。
Part 4: FAQ
Q1. 日本本社の人事規程で「修士号必須」と決まっているポジションがあります。現地で運用を変えてよいのでしょうか?
A. 日本本社との合意なく現地で勝手に変えると、後で問題になります。まず本社の人事部に「フィリピンの労働市場ではスキル評価の比重が高まっている」と元記事のような外部資料を添えて説明し、現地裁量を認めてもらう覚書を結んでください。本社側も、米国市場の動きを示せば理解を得やすくなります。
Q2. フィリピンで実技テストを導入する際、著作権やプライバシー面で気をつけることはありますか?
A. 候補者から提出してもらった成果物には、本人の個人情報や前職での守秘義務に関わる情報が混じることがあります。NPC(国家プライバシー委員会)が定める個人情報保護のルールに従い、不採用となった候補者の提出物は一定期間後に確実に削除する手順を作っておきましょう。実技課題そのものに、他社の機密に踏み込む内容を含めないことも大切です。
Q3. AWSやGoogle Cloudの認定資格を持つ候補者は、給与をどれくらい上乗せすべきでしょうか?
A. ポジションと資格のレベルにより幅がありますが、エントリー級のクラウド資格で月額2,000ペソから5,000ペソ、上位資格で月額10,000ペソ以上の手当を出す日系企業も増えています。給与の絶対額そのものを上げるのか、資格手当として切り出すのかで、税務上の扱いが変わります。BIR(内国歳入庁)の規定を踏まえ、社労士または会計事務所に相談しておくと安全です。
Q4. 学歴を採用基準から外すと、応募者が増えすぎて選考が回らなくなりませんか?
A. その懸念は現実的です。だからこそ、初期段階での実技テストや動画選考を組み合わせることが鍵になります。例として、応募時に「30分で解ける課題」へのリンクを送り、提出した人だけを面接に進める運用にすると、量と質の両立が可能です。AIによる書類選考の自動化も併用できますが、差別的な判定を避けるため、最終判断は必ず人が行うようにしてください。
Q5. 現地スタッフのスキル習得を支援するため、研修費用の予算を取りたいです。フィリピンでの相場はどれくらいでしょうか?
A. 一人当たり年間20,000ペソから80,000ペソの研修予算が、現地の中堅IT企業や日系企業で一般的な水準です。AWS認定、Google Cloud認定、PMP、Microsoftの各種認定などが人気で、平日夜間や週末に学べるオンライン研修と組み合わせて提供すると、業務と両立できます。研修費用は人件費とは別枠で予算化し、効果測定の指標(取得者数、業務貢献度)を最初に決めておくと、本社への説明が楽になります。
活用のコツ(3 Tips)
1. 求人票を1ポジションずつ書き直す
すべての職種を一度に変えようとすると現場が混乱します。まずは採用に苦戦している1ポジションを選び、学歴要件を外して認定資格と実技で評価する形に書き換えてみてください。応募者の量と質の変化を3ヶ月ほど追跡してから、次のポジションに展開する進め方が安全です。
2. 実技課題は「短く、業務に近く、フィードバックを返す」を守る
候補者の時間を奪う長時間課題は、優秀な人ほど離れていきます。2時間以内で終わる業務直結の課題に絞り、不採用の場合でも簡単な講評を返しましょう。マニラやセブの人材市場は口コミの影響が強く、丁寧な選考プロセスそのものが採用力を高めます。
3. 入社後の資格取得支援を制度として書面化する
「頑張ったら手当を出す」という曖昧な約束は、後で必ず揉めます。対象資格、金額、支給期間、退職時の返還ルールまで雇用契約書か別規程に明記してください。書面に残しておけば、社員にとっても会社にとっても予測可能性が高まり、研修への投資が活きてきます。
ボーナス: PH AI Worksの活用法
PH AI Worksは、フィリピンに進出する日本企業と在フィリピンの日本人ビジネスパーソンに向けて、AI活用と現地業務のデジタル化を支援しています。今回のテーマであるスキルベース採用に関しても、以下のようなご相談をお受けしています。
- 現地法人の採用要件をAI時代に合わせて見直す進め方のご相談
- 実技テストやAI面接ツール導入時の運用設計と、現地スタッフへの説明会の組み立て
- 採用したフィリピン人材へのAI研修プログラム設計と、認定資格取得支援制度の作り込み
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