特定技能停止・育成就労へ ― フィリピン日系企業のAI人材戦略
特定技能の外食業受け入れ停止と2027年の育成就労制度開始を受け、フィリピン進出日本企業が直面する人材戦略の見直しを解説。AI活用・現地採用・研修設計の実務ポイントをまとめます。

日本の「特定技能」外食業受け入れ停止と「育成就労」新制度 ― フィリピン進出日本企業が今すぐ知るべき人材戦略
日本の外国人労働者制度の転換期に、フィリピン現地法人が取るべき採用見直しとAI・業務自動化の進め方を、実務手順とともに整理してお届けします。
Part 1: このテーマが重要な理由
Step 1: フィリピンビジネスでの背景 (3分)
日本国内の外国人労働者は2025年末時点で約257万人に達しており、その中でもフィリピン人は介護・外食・製造業を支える重要な人材として知られています。日本政府が2026年4月に外食業での「特定技能1号」の新規受け入れを停止したことで、フィリピンから日本への労働力の流れに変化が起きはじめています。一方で、日本企業のフィリピン現地法人や、マニラ・セブを拠点とする日系BPO(業務委託サービス)企業にとっては、日本へ送り出すはずだった人材を現地で雇用するチャンスが広がる可能性もあります。
在フィリピン日本人ビジネスパーソンにとって、この制度変更は二つの意味を持ちます。一つは、日本本社の人材確保戦略がフィリピン現地法人にどう影響するかという観点です。もう一つは、フィリピン人スタッフを採用する際に「日本行きを希望していた候補者」が市場に出てくる可能性があるという観点です。AI(人工知能)やRPA(業務自動化ツール)を活用して人手不足を補う動きと、現地採用を強化する動きを並行して検討する必要があります。
マニラ・BGC地区の日系飲食チェーン現地法人にて、人事担当の田中さん(仮名)が朝のミーティングで切り出します。「日本の本社から連絡がありました。特定技能の外食枠が新規停止になったそうです。来年からは『育成就労』という新しい制度が始まると。私たちのマニラ拠点でも、現地スタッフの教育プログラムを強化して、本社への送り出し人材を育てる計画を見直す必要がありそうです。AIを使った業務効率化と組み合わせて、現地で長く働いてもらえる仕組みを考えませんか?」
Step 2: 元記事の要点を整理する (5分)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 在留外国人総数(2025年末) | 412万5392人 |
| 外国人労働者数(2025年末) | 約257万人(労働力全体の約4%) |
| 特定技能1号 外食業の上限 | 5万人(2026年2月末時点で約4.6万人到達) |
| 受け入れ停止発表日 | 2026年4月13日 |
| 技能実習生数(2024年末) | 約45.7万人 |
| 建設関係の技能実習生(2024年末) | 10.7万人 |
| 食品製造関係の技能実習生(2024年末) | 9.3万人 |
| 機械・金属関係の技能実習生(2024年末) | 6.1万人 |
| 農業・林業関係の技能実習生(2024年末) | 3.2万人 |
| 永住者数 | 約95万人(在留外国人全体の23%) |
| 技術・人文知識・国際業務 | 約48万人弱(11.5%) |
| 留学生資格保有者 | 約46万人(資格外活動許可で週28時間まで就労可能) |
| 特定技能保有者 | 約39万人 |
| 新制度「育成就労」の開始時期 | 2027年4月から(技能実習に代わる新在留資格) |
| 外国人労働者数の推移 | 2010年 約65万人 → 2025年 約257万人(約4倍) |
出典: ビジネス+IT — 「外食・介護が崩壊? 日本から『外国人労働者』が逃げていく"残酷な理由"」(2026年5月19日)
この表は学習目的で公開情報の事実をもとに作成したものです。詳細は上記リンクの元記事をご確認ください。
Step 3: 理解度チェック (5分)
Q1. 2026年4月13日に日本政府が新規受け入れを停止した在留資格は何ですか。また、どの業種が対象になりましたか。
ヒント: 上限5万人のうち、すでに約4.6万人に達していた業種を思い出してください。
Q2. 2027年4月から技能実習に代わって導入される新しい在留資格の名称は何ですか。
ヒント: 名前そのものに「育てる」「働く」という意味が含まれています。
Q3. 2025年末時点で、日本国内の外国人労働者は約何人ですか。また、それは2010年と比べて何倍に増えていますか。
ヒント: 2010年は約65万人でした。割り算で計算してみましょう。
Q4. 技能実習生の中で、最も多くの人が従事している職種カテゴリは何ですか(2024年末時点)。
ヒント: 群馬県太田市の自動車産業の例も記事に出てきました。建設関係には10.7万人が従事しています。
Q5. 留学生が「資格外活動の包括許可」を得た場合、1週間で最大何時間まで働くことができますか。
ヒント: 30時間より少し少ない時間です。
関連: フィリピン市場に最適化したAI導入ロードマップ|現地の実情を踏まえた実践ガイド で詳しく解説しています。
Part 2: 実務への応用
Step 4: フィリピンでの導入ステップ (10分)
日本本社の人材確保戦略の変化を踏まえ、フィリピン現地法人や日系企業が取り組むべき手順を整理します。
| ステップ | 内容 | フィリピン特有の注意点 |
|---|---|---|
| 1. 現地法人の人材ニーズを再点検する | 日本へ送り出す予定だった人材と、フィリピン現地で必要な人材を切り分けて整理します。介護・外食・製造の各分野で、本社の方針変更が現地採用計画にどう響くかを確認しましょう。 | DOLE(労働雇用省)の最新の雇用ガイドラインを確認し、現地採用と海外派遣の手続きの違いを理解しておく必要があります。 |
| 2. AI・RPAによる業務自動化の対象を洗い出す | 注文受付や在庫管理、シフト調整など、人手に頼っていた作業をAIや自動化ツールで補える領域を選びます。これにより、人材不足を緩和できます。 | フィリピンの個人情報保護法(DPA)に基づき、NPC(国家プライバシー委員会)への登録や、従業員データの取り扱いに関する社内規程の整備が必要です。 |
| 3. 現地スタッフ向けの研修プログラムを再設計する | 「日本で働きたい」という希望を持つフィリピン人材に対し、現地法人でキャリアを積みながら日本語や日本の業務文化を学べる仕組みを作ります。 | 給与水準は地域別最低賃金(NCR=マニラ首都圏で日額600ペソ前後が目安)を踏まえ、研修手当を上乗せする設計が現実的です。BIR(内国歳入庁)への源泉徴収義務にも注意しましょう。 |
| 4. 育成就労制度に対応した連携先を選ぶ | 2027年4月から始まる新制度を見据え、現地の送り出し機関や教育機関と早めに連携体制を作っておきます。POEAから改称されたDMW(移住労働者省)の許認可状況も確認します。 | 口頭での合意がよく使われるフィリピンの商習慣を踏まえ、覚書(MOU)や契約書を必ず書面で残してください。署名前に弁護士のレビューを入れることをおすすめします。 |
| 5. 投資対効果を試算し、関係者に説明する | 自動化投資と人材育成投資の費用対効果を試算し、本社と現地経営層に提示します。3年程度の中期計画で考えるのが現実的です。 | 投資額の試算ではペソ建てとドル建ての両方で示し、為替変動のリスクを併記すると本社の理解を得やすくなります。 |
Step 5: よくある失敗と対策 (5分)
失敗パターン1: 「日本本社の方針変更を現地に伝えるのが遅れる」
NG例: 本社の人事部から「特定技能の外食枠停止」の連絡を受けても、現地法人内で共有せず、3か月後にスタッフから「日本に行けるはずだったのに、どうなっているのか」と詰め寄られて混乱します。
OK例: 本社から方針変更の連絡を受けたら、現地のHRマネージャーと相談のうえ、1〜2週間以内に該当スタッフへ説明会を開きます。質問を受ける時間を必ず確保し、書面でも要点を配布しましょう。
失敗パターン2: 「AI導入を進めるあまり、現地スタッフの不安を放置する」
NG例: 業務自動化のツールを一気に導入し、「これで人手不足は解決」と現地スタッフへの説明を後回しにします。結果として、自分の仕事がなくなるのではないかという不安が広がり、優秀な人材が離職してしまいます。
OK例: AIや自動化ツールは「単純作業を肩代わりする道具」であり、スタッフはより付加価値の高い業務に移ってもらう、という方針を導入前に丁寧に説明します。新しい業務への研修プログラムも同時に用意しましょう。
失敗パターン3: 「現地採用の給与・契約条件を口頭合意で済ませる」
NG例: フィリピン人スタッフを採用する際に、給与や研修期間の条件を口頭で説明し、契約書には簡単な内容しか書かないままにします。後日「日本行きの話はどうなったのか」と争いになり、訴訟リスクを抱えます。
OK例: 採用時に、給与・研修内容・将来の日本派遣の可能性などをすべて契約書に明記します。フィリピンの労働法に詳しい現地弁護士にレビューを依頼し、署名前に双方で読み合わせを行いましょう。
関連: フィリピンの人件費とAI自動化——日系企業が知るべき最適なバランス で詳しく解説しています。
Part 3: さらに深く学ぶ
Step 6: 関連する技術用語 (5分)
特定技能(Specified Skilled Worker/とくていぎのう)は、日本政府が2019年に新設した在留資格で、人手不足が深刻な業種で外国人が働くために設けられた仕組みです。フィリピンの送り出し機関と提携する日系企業では、マニラやセブで日本語研修と業務研修を提供し、合格者を日本の介護施設や外食店舗に派遣する流れが定着しています。
技能実習(Technical Intern Training Program/ぎのうじっしゅう)は、外国人が日本で技術を学び、帰国後に母国でその技術を生かしてもらうことを名目に2010年に整備された制度です。フィリピンの製造業の管理職候補が技能実習生として日本の工場で3〜5年経験を積み、帰国後にマニラ郊外の工業団地で指導役を担うケースが見られます。
育成就労(Skilled Worker Development/いくせいしゅうろう)は、技能実習に代わって2027年4月から始まる新しい在留資格で、人材を育成しながら長く働いてもらう仕組みへ転換する狙いがあります。フィリピンの大学を卒業した若手人材を、日本での就労を前提に現地で1年間育成するといったプログラムが今後広がる可能性があります。
BPO(Business Process Outsourcing/業務委託サービス)は、企業の経理やコールセンターなどの業務を外部の専門会社に委託する仕組みです。フィリピンは英語人材が豊富なため、マニラやセブを拠点とするBPO企業が日本企業から経理や問い合わせ対応を受託する事例が多くあります。
DPA(Data Privacy Act of 2012/フィリピン個人情報保護法)は、フィリピン国内で個人情報を扱う組織が守るべきルールを定めた法律です。日系企業がマニラのオフィスで日本人スタッフとフィリピン人スタッフの両方の人事データを管理する場合、NPC(国家プライバシー委員会)への登録と、社内の取り扱い手順の整備が求められます。
Step 7: 自社への応用を考える (10分)
フィリピン現地法人での「日本派遣前提採用」の見直し
考えるヒント: これまで「将来は日本本社に派遣する」ことを前提に採用していた人材がいる場合、本社の方針変更でその計画が宙に浮く可能性があります。現地でキャリアを積める道筋を再設計し、本人に説明できるようにしましょう。給与水準や昇進機会を、日本派遣の有無に関わらず魅力的に整えることが大切です。
次のアクション: 現地法人のHRマネージャーと一緒に、過去2年間で「日本派遣前提」と説明して採用した人数をリストアップし、それぞれの本人と1対1の面談を設定してみてください。
AI・自動化ツールで補える業務領域の特定
考えるヒント: 注文受付、在庫管理、シフト調整、経理処理など、人手不足の影響を受けやすい業務を洗い出します。フィリピンでもクラウド型のAIツールや自動化ソフトが導入しやすくなっており、月額数千ペソ程度から試せるものもあります。まずは1つの業務領域で小さく試し、効果を見てから広げる進め方が現実的です。
次のアクション: 来週中に、現地法人で「もっとも人手がかかっている業務トップ3」を部門長にヒアリングし、そのうち1つに対してAIまたは自動化ツールの試験導入の計画を立ててください。
フィリピン現地での人材定着戦略の再構築
考えるヒント: 日本への送り出し前提ではなく、フィリピン現地で長く働いてもらうための仕組みを作る視点が重要になります。給与だけでなく、健康保険(PhilHealth)の上乗せ、社内研修、家族向けのイベントなど、文化的な配慮を含めた総合的な働きがいを設計しましょう。離職率を下げることが、結果として人材確保コストの削減につながります。
次のアクション: 現在の離職率を部門別に算出し、過去1年間で退職したスタッフ5名程度に退職理由のヒアリングを行ってください。共通する理由が見つかれば、それを改善する施策から着手するのが効果的です。
Part 4: FAQ
Q1. 特定技能の外食業受け入れ停止は、フィリピン現地法人の採用計画にどう影響しますか。
A1. 直接の影響は、日本本社へフィリピン人スタッフを送り出す予定があった企業に限られます。しかし、フィリピン国内で「日本で働きたい」と希望していた候補者が現地の労働市場に残るため、現地採用の競争力は相対的に高まります。マニラ・セブの日系企業にとっては、優秀な人材を現地で確保する好機ともいえます。給与水準と研修内容を見直し、現地キャリアパスを明確に示すことをおすすめします。
Q2. 2027年4月からの「育成就労」制度では、企業側に何が求められますか。
A2. 制度の詳細は今後の政府公表を待つ必要がありますが、現時点で公表されている情報では、人材を「育成しながら働いてもらう」考え方が中心になります。フィリピン側の送り出し機関との連携、日本語教育の体制、転籍の自由度などが、技能実習からの大きな変更点として議論されています。フィリピン現地法人としては、2026年中に情報収集を進め、2027年初頭までに対応方針を固めるのが現実的です。
Q3. フィリピン人スタッフを現地で雇用する場合、日本との給与水準の差をどう説明すればよいですか。
A3. 日本とフィリピンでは生活コストが大きく異なるため、額面の比較ではなく購買力で考えることを伝えるのが効果的です。マニラ首都圏(NCR)の地域別最低賃金は日額600ペソ前後が目安ですが、日系企業の管理職候補であれば月給4万〜6万ペソ程度が一般的な水準です。健康保険や交通費補助、研修機会など、給与以外の要素も含めて総合的に提示すると納得感が高まります。
Q4. AI導入で人員削減の不安を持つフィリピン人スタッフに、どう向き合えばよいですか。
A4. フィリピンの職場文化では、上司との信頼関係が業務遂行の基盤になります。AIや自動化ツールの導入を「人を減らすため」ではなく「単純作業から解放してより創造的な仕事をしてもらうため」と位置づけ、導入前に時間をかけて説明することが大切です。スタッフ代表との対話の場を設け、不安や疑問を出してもらう機会を作りましょう。文書だけでなく、対面での説明を併用することが信頼構築の鍵になります。
Q5. 日本本社と現地法人の意思疎通で、特に気をつけるべき点は何ですか。
A5. 日本本社の判断は数値や上限管理に基づいて素早く変わることがあり、現地法人がそれに振り回されることがあります。本社からの方針変更があった場合は、現地法人として「現地スタッフへの影響」「契約上の責任」「採用計画への波及」の3つの観点から本社へフィードバックする仕組みを作っておきましょう。フィリピンでは口頭での合意が重視される文化ですが、本社との重要なやり取りは必ず書面で残すことが、後のトラブル回避につながります。
活用のコツ(3 Tips)
自社の人材ポートフォリオを「日本派遣前提」と「現地完結型」に分けて見直す
日本の制度変更に左右される人材と、フィリピン現地で長期的に働いてもらう人材を切り分けて管理することで、本社の方針が変わっても現地の業務が止まらない体制を作れます。HRマネージャーと一緒に、四半期ごとの見直しを習慣にしましょう。
AI・自動化ツールは「小さく試して効果を測る」から始める
いきなり大規模な投資をするのではなく、月額数千ペソ程度から始められるクラウド型のツールを1つの部門で試験導入し、3か月後に効果を測ります。成功事例を社内で共有してから他部門へ広げる進め方が、現地スタッフの納得感を得やすい方法です。
現地スタッフとの対話の場を月1回以上設ける
人手不足や制度変更に関する不安は、対話の場が少ないほど大きくなります。少人数の昼食会やオフィスでのコーヒータイムなど、フィリピンの文化に合った形式で定期的に対話する機会を作りましょう。聞き取った内容を本社への報告にもつなげると、現地の実情を本社に伝える架け橋になります。
ボーナス: PH AI Worksの活用法
PH AI Worksは、フィリピンに進出する日本企業や在フィリピン日本人ビジネスパーソンに向けて、AI活用と業務自動化の導入を支援しています。今回のテーマに関連して、以下の領域でご相談いただけます。
- フィリピン現地法人での人事業務(採用管理、シフト調整、給与計算など)にAIを取り入れる進め方
- 日本本社の制度変更に対応した現地スタッフ向け研修コンテンツの作成支援
- 人手不足を補うための業務自動化ツールの選定と導入計画の策定
まずはお気軽にお問い合わせください。無料でご相談いただけます。

