TCSが最大8,900人のAI導入エンジニアを配置——フィリピンの外部委託と日本企業のAI活用を読み解く
インド最大手TCSが最大8,900人のAI導入エンジニアを配置する狙いを解説。フィリピンの外部委託ビジネスへの影響、在フィリピン日本企業が現地チームをAI活用へ転換する手順、データ保護やペソ予算の注意点まで実務目線で整理します。

TCSが最大8,900人の「顧客常駐型AIエンジニア」を配置へ — 外部委託ビジネスとAIの関係をフィリピン拠点から読み解く
インド最大手TCSの顧客常駐型AIエンジニア構想を手がかりに、フィリピンの外部委託ビジネスがAIでどう変わるのかを整理します。現地チームの役割の描き直し方と、導入の具体的な手順を学べます。
Part 1: このテーマが重要な理由
Step 1: フィリピンビジネスでの背景 (3分)
インド最大のソフトウェアサービス企業であるタタ・コンサルタンシー・サービシズ(TCS)が、顧客企業に入り込んでAI導入を進める技術者を最大8,900人規模でそろえる方針を示しました。背景には、AIがインドの3,150億ドル規模のITサービス産業を揺るがすのではないか、という投資家の懸念があります。エンジニアチームへの需要が減り、案件の期間が短くなり、価格が下がるのではないかという不安です。
この論点は、フィリピンで働く日本人ビジネスパーソンにとって他人事ではありません。フィリピン経済を支える柱のひとつが、コールセンターや、経理の共通業務を集約した部門、ITの問い合わせ対応といった外部委託の仕事だからです。日本企業も、マニラやセブに業務を委託したり、自社の子会社を置いたりしています。「AIが人手を減らすから委託は縮む」という見方と、「AIを現場で動かす人がむしろ必要になる」という見方が、まさに今ぶつかっています。
TCSの経営陣が示した答えは後者でした。つまり、AIを買ってきても、それを既存の仕組みにつなぎ、データの流れを整える相手が必要になる、という考え方です。フィリピン拠点を持つ日本企業にとっては、現地チームの役割を「作業の代行」から「AIを現場で動かす担当」へ描き直すヒントになります。
月曜の朝、マカティのオフィス。日本人マネージャーがフィリピン人のIT責任者にスマートフォンの記事を見せます。「インドの最大手が、お客さんの現場に入り込むAIエンジニアを最大8,900人そろえるらしい。うちのマニラチームも、同じ方向に動けると思う?」IT責任者は少し考えてから答えます。「作業を代行するだけなら置き換えられます。でも、私たちは日本本社のシステムも、現地の商習慣も知っています。そこが強みになるはずです」
Step 2: 元記事の要点を整理する (5分)
| 項目 | 元記事で報じられた内容 |
|---|---|
| 発表した企業 | タタ・コンサルタンシー・サービシズ(TCS)。ムンバイに本社を置く、インド最大のソフトウェアサービス企業 |
| 報道日 | 2026年7月12日(ロイター、ベンガルール発) |
| 中心となる計画 | 顧客先に入り込んでAI導入を進めるエンジニア(FDE)を最大8,900人規模でそろえる |
| 人数の根拠 | 従業員の1%〜1.5%に相当。6月末時点の従業員数をもとにすると、おおよそ5,900人〜8,900人 |
| 発言者 | ケー・クリティヴァサンCEO、サミール・セクサリアCFO |
| 採用か再教育か | 外部から採用するのか、既存社員を教育し直すのかは明らかにされていない |
| 買収の方針 | AI、データセキュリティ、サイバーセキュリティの分野で買収を検討中。2025年後半までは自力の成長を重視し、買収をほとんど行ってこなかった |
| 業界の懸念 | AIが3,150億ドル規模のインドITサービス産業を揺るがし、需要の減少、案件期間の短縮、価格の下落を招くという投資家の不安がある |
| CEOの反論 | AIを動かすには顧客の環境を深く知る必要があり、そこで差がつく。人件費の安さで勝負しているのではなく、育ててきた人材の層で勝負しているという主張 |
| AI事業の数字 | 年率換算のAI売上成長率が、前四半期の28%から第1四半期は13%に鈍化。CEOは長期的には四半期ごとに約25%の成長を望むが、一直線には伸びないと述べている |
| 人材への投資 | 人材育成と社内でのAI活用のために、年間およそ10億ドルを支出 |
| 競合の動き | 米国の大手AI開発企業やソフトウェア大手も、顧客のAI導入を支える同種のエンジニアの採用を拡大している |
この表は学習目的で公開情報の事実をもとに作成したものです。詳細は上記リンクの元記事をご確認ください。
関連: フィリピンでAIを導入したい日本人経営者が知るべき実践ガイド で詳しく解説しています。
Step 3: 理解度チェック (5分)
Q1. TCSが用意しようとしている「顧客先に入り込むエンジニア」は、最大で何人規模でしょうか。
ヒント: 従業員の1%〜1.5%という比率から計算された人数が記事に出ています。
Q2. 投資家が心配している「AIによるITサービス産業への影響」は、具体的にどの3点でしょうか。
ヒント: 需要、期間、価格という3つの言葉が手がかりになります。
Q3. クリティヴァサンCEOは、TCSの強みはどこにあると述べているでしょうか。
ヒント: 「人件費の安さではない」と明確に否定しています。では何で勝負しているのでしょうか。
Q4. TCSのAI事業の年率換算の売上成長率は、前四半期から第1四半期にかけてどう変化したでしょうか。
ヒント: 2つのパーセンテージが記事に出てきます。数字は下がっています。
Q5. TCSが買収を検討している分野を3つ挙げてください。また、これまでの買収に対する姿勢はどうだったでしょうか。
ヒント: AI以外に、守りに関する分野が2つあります。時期としては2025年後半が節目です。
関連: フィリピンの人手不足はAIで解決できる|在マニラ13年のAIエンジニアが語る実践的導入ガイド で詳しく解説しています。
Part 2: 実務への応用
Step 4: フィリピンでの導入ステップ (10分)
TCSの動きは、「AIを導入する人材を顧客の現場に置く」という考え方です。これをフィリピンの自社拠点や委託先との関係に置き換えると、次の手順になります。
| ステップ | やること | フィリピン特有の注意点 |
|---|---|---|
| 1 | 現地業務のうちAIで代替できる作業と、人が残る作業を仕分ける | 現場の業務手順が文書ではなく口頭で共有されている職場が多く、まず手順を書き出す作業から始める必要があります |
| 2 | 現地に「AIを現場で動かす担当」を1〜2名決める | 新規採用より、業務を知る既存社員の教育が現実的です。教育費用の目安は1人あたり月5万〜15万ペソ規模で見込みます |
| 3 | 扱うデータの範囲と保護のルールを決める | 個人情報を扱う場合、国家プライバシー委員会(NPC)が所管するデータプライバシー法の順守が必要です。学習にデータを使われない設定と、誰が何を見たか残る記録を用意します |
| 4 | 小さな業務でためし、効果を数字で確認する | 効果は「削減できた時間」と「削減できたペソ」の両方で示します。日本本社は費用対効果の説明を求めるため、月次で記録します |
| 5 | 委託先との契約と請求の条件を見直す | 委託契約の変更や請求書の扱いは、内国歳入庁(BIR)に対する税務上の記録と整合させる必要があります。口頭での合意で進めず、必ず書面に残します |
各ステップは短期間で回すことが大切です。最初から全社に広げず、1つの部署、1つの業務から始めてください。
Step 5: よくある失敗と対策 (5分)
失敗パターン1: 「AIを入れたので人を減らせる」と先に発表してしまう
NG例: 日本本社が「AI導入により現地の人員を削減する」と先に打ち出し、マニラの現場が反発して協力が得られなくなります。
OK例: 「AIを使って単純作業を減らし、空いた時間をお客様対応の品質向上に充てる」と目的を先に伝えます。現地社員には、AIを動かす側に回る道があることを説明してください。
失敗パターン2: 日本本社が作った手順書をそのまま現地に配る
NG例: 日本語の手順書を翻訳しただけで配り、現地の業務の流れと合わず、誰も使わないまま終わります。
OK例: マニラのIT責任者と一緒に、現地の業務の流れに合わせた版を作ります。チームでの説明会では具体例を見せながら伝え、最後に質問を受ける時間を必ず取りましょう。
失敗パターン3: 個人情報の扱いを決めないまま、外部のAIツールを現場が使い始める
NG例: 顧客の氏名や連絡先を含む問い合わせ内容を、担当者が個人の判断で外部サービスに貼り付けてしまいます。情報漏洩などの事故が起きても、本社にだけ報告してNPCへの通知が遅れます。
OK例: 使ってよいツールと、入力してはいけない情報を最初に一覧にして配ります。事故が起きたときに誰が誰に報告するかを決め、現地の責任者と日本本社の双方に同時に伝わるようにしてください。
Part 3: さらに深く学ぶ
Step 6: 関連する技術用語 (5分)
フォワードデプロイドエンジニア(Forward-Deployed Engineer/顧客先に入り込んで導入を進める技術者) は、AIの道具を持って顧客の会社の中に入り、その会社の仕事に合うように調整しながら動かす技術者のことです。フィリピンでは、マニラの委託先チームに1名こうした担当を置き、日本本社のシステムと現地の問い合わせ対応をつなぐ役として動いてもらう形が考えられます。
アウトソーシング(外部委託) は、自社でやっていた仕事を、外の会社に任せる仕組みのことです。フィリピンではコールセンターや、経理の共通業務、ITの問い合わせ対応などが代表例で、日本企業もマニラやセブの委託先に日常業務を任せています。
コストアービトラージ(人件費の差を利用した利益の出し方) は、人件費の安い国に仕事を移すことで費用を下げる考え方です。TCSのCEOはこの考え方だけでは勝負していないと述べていますが、フィリピン拠点でも「安いから任せる」だけの関係は、AIの普及とともに弱くなっていきます。
サイバーセキュリティ(情報を守る技術) は、外部からの攻撃や情報の盗み出しから、会社のデータや仕組みを守る技術のことです。TCSはこの分野で買収を検討していますが、フィリピンでも顧客情報を大量に預かる委託先ほど、守りの体制が取引を続けられるかどうかの判断材料になります。
年率換算の成長率(annualised growth/1年あたりに直した伸び率) は、短い期間の売上の伸びを1年分に直して比べやすくした数字のことです。TCSではこの数字が28%から13%に下がりましたが、フィリピン拠点でAI導入の効果を報告するときも、こうした比べやすい形にすると日本本社に伝わりやすくなります。
Step 7: 自社への応用を考える (10分)
フィリピン拠点の仕事を「代行」から「AIを動かす役」へ描き直す
自社のマニラやセブのチームが今している仕事のうち、AIに任せられるものと、人が残るものを書き出してみましょう。
考えるヒント: TCSのCEOは、AIを動かすには顧客の環境を深く知る必要があると述べています。あなたの現地チームが持っている「日本本社の事情も現地の事情も知っている」という知識は、他社には簡単にまねできない強みではないでしょうか。
AIの効果が一直線には伸びないことを、本社にどう説明するか
TCSのAI売上の伸びは28%から13%に鈍化しました。それでもCEOは長期では成長すると見ています。
考えるヒント: 導入初月に効果が出なかったときに、本社が「失敗」と判断してしまう危険があります。何か月分の数字をどの形で見せれば、腰を据えた判断をしてもらえるでしょうか。
自社で育てるか、外から買うか
TCSは長らく買収を避けてきましたが、AIと情報を守る分野では買収を検討し始めました。同時に、人材育成に年間およそ10億ドルを使っています。
考えるヒント: あなたの会社は、フィリピンでAIを扱える人を自社で育てるべきでしょうか。それとも現地の専門会社と組むべきでしょうか。判断の分かれ目は、その仕事が自社の競争力の中心にあるかどうかです。
次のアクション: 来週の現地定例会で30分だけ時間を取り、マニラのチームと一緒に「今の業務でAIに任せられそうな作業」を5つ書き出してください。書き出した紙をそのまま日本本社への報告資料の材料にします。
Part 4: FAQ
Q1. AIが広がると、フィリピンへの外部委託は減っていくのでしょうか。
元記事でTCSのCEOは、AIは新しい仕事を生むのであって外部委託を弱めるものではないという立場を取っています。理由は、複数のAIを既存の仕組みにつなぎ、データの流れを整える相手が必要だからです。フィリピン拠点でも、単純な作業の代行だけを担う部分は縮む可能性がありますが、AIを現場で動かして直す役割は増える方向にあります。
Q2. 現地スタッフに、AIを扱う教育をどこから始めればよいですか。
まずは全員に共通の基礎(何を入力してよいか、何を入力してはいけないか)を教えることから始めてください。そのうえで、業務を最もよく知る1〜2名に集中して教育します。TCSも人材育成に大きな金額を割いています。全員を同じ深さで育てる必要はありません。
Q3. 日本本社が「AIは日本で決める、現地はその指示に従う」という姿勢です。どう説得すればよいでしょうか。
現地の業務の流れを知らないままAIを設定すると、現場で使われずに終わることを具体例で示してください。元記事のCEOの主張も、顧客の環境を深く知ることが差になるという内容です。決定権は本社に残したまま、設定と改善は現地が担う形を提案すると受け入れられやすくなります。
Q4. 個人情報を扱う業務にAIを使うとき、フィリピンで特に気をつけることは何ですか。
国家プライバシー委員会(NPC)が所管するデータプライバシー法の対象になるかどうかを最初に確認してください。日本の個人情報保護法とは通知の手順や期限の考え方が異なります。日本本社の基準をそのまま当てはめず、現地の法務担当か外部の専門家に確認することをおすすめします。
Q5. 導入の予算はどのくらい見ておけばよいですか。
業務の規模によりますが、小さく始める場合は、教育と道具の利用料を合わせて月あたり数万ペソから十数万ペソの範囲で組み立てる企業が多く見られます。大切なのは金額の大小より、削減できた時間をペソに換算して毎月記録することです。数字が残っていれば、次の予算交渉が格段に楽になります。
活用のコツ(3 Tips)
現地チームの業務手順を、まず紙に書き出してください。 フィリピンの職場では手順が口頭で共有されていることが少なくありません。手順が言葉になっていなければ、AIにも人にも引き継げません。AI導入の第一歩は、道具選びではなく手順の見える化です。
「AIを動かす担当」を必ず現地に1名置いてください。 日本本社から遠隔で設定するだけでは、現場の細かい事情が反映されません。元記事のTCSの発想と同じで、現場に入り込む人がいて初めてAIは業務に定着します。既存社員から選ぶのが現実的です。
効果は「時間」と「ペソ」の両方で毎月記録してください。 AIの効果は一直線には伸びません。単月の数字だけを見れば、失敗に見える月も出てきます。数か月分をならして見せられる記録があれば、本社も現地も落ち着いて判断できます。
ボーナス: PH AI Worksの活用法
PH AI Works は、フィリピンでのAI活用と技術導入を支援する企業です。フィリピン拠点を持つ日本企業や、これから進出を検討する企業に向けて、現地の業務実態に合わせたAIの導入を一緒に考えます。
次のステップとして、次のようなご相談をお受けしています。
- 現地チームの業務を洗い出し、AIに任せられる作業と人が残る作業を仕分けする支援
- 現地に置く「AIを動かす担当」の役割設計と、社内教育の進め方についての相談
- 個人情報や顧客データを扱う業務でAIを使う際の、社内ルールづくりの相談
無料でご相談いただけます。まずはお気軽にお問い合わせください。

